2025年 『個展三部作』 完結の記録
- 7月11日
- 読了時間: 10分
更新日:7月31日

物語的アート体験
ナラティヴ・インスタレーション
『いのちとは けして届かぬ星に
手をのばすこと』
To live is to reach for a star
that can never be touched
川口忠彦展
2025年12月9(火)~13(土)
東京 神保町 ギャラリーCORSOにて
◇
「神は細部に宿ると言いますが、こんなに世界の隅々まで、世界を作る手に神が宿っている作品作りをされている方は、他にいないのではないか、と思うぐらい心を揺さぶられる展示でした」
(メッセージカードより)
2023年12月。九年ぶりに再開した個展は、
その後'24、'25年と、三年間続く三部作となりました。
2023年 新章開幕
『わたしたちはみな孤独 ひとつの例外もなく』
2024年 第二幕
『そんなものに きみは汚されたりしない』
2025年 第三幕
『いのちとは けして届かぬ星に 手をのばすこと』
《物語的アート体験》と名付けた空間表現が、三年を経てどこにたどり着いたのか。
——この文書は、2025年個展をもっての個展三部作完結と、
この三年間という時間が何を生んだのかを記録するものです。

Ⅰ 三つの展示が 一つの世界へ
「ひとつの大きな世界を、三つの視点やそれ以上の切り口で編み上げる。それを展示という方法で我々が“観測”するという作品づくり、昇華…。これからもまた何度でも味わいたいです。」
(メッセージカードより)
第1幕 2023年
「わたしたちはみな孤独 ひとつの例外もなく」
パンデミックを超え、九年ぶりの新章。
それまでの個展とは大きく形式を変え、《絵画》《詩》《音楽》がひとつの空間で呼吸を始めた初めての展示。
世界はまだ産声をあげたばかりですが、
このとき生まれた形式 ―《幻想絵画》と《詩片》、分散配置された30分間の《空間音楽》、時折現れる《銀河》の小さなパネル、これらが互いに影響しながら物語世界を生成する― は三部作を通して、少しずつ姿を変えながら受け継がれていきます。
― わたしたちの“現代の孤独”“宿命的な孤独”という前提の認識と、
“そこからの可能性”について、五感を通じて体感されます。
《観測》される世界のはじまりです。
第2幕 2024年
「そんなものに きみは汚されたりしない」
第一幕で生まれた《物語的世界》が、
二幕では《物語的アート体験》と名付けられ、歩き始めます。
「闇鳥」というちいさな鳥の物語が展示に並走し、幻想絵画を通じて鑑賞者の内に呼び覚まされるエモーションとともに、大きなうねりを編んでいきます。
音楽的には、“闇鳥のテーマ”という新しい旋律に導かれながら、一幕で使用された象徴的なモチーフが再登場し、新たな旋律に引き継がれます。
― 第一幕で共有された孤独という前提の上に、“環境や他者からの影響”と
“内面の不可侵性”について思考が展開していきます。
第3幕 2025年
「いのちとは けして届かぬ星に 手をのばすこと」
前二幕を踏まえ、《ちいさき いのち》たちのミクロな視点と、銀河観的視点が交差し、この《観測世界》そのものが、大きくその姿を広げていきます。
物語性は、一幕の同心円的な感覚と、二幕での線的な感覚をともに受け継ぎ、
複線的な物語体験で、より重層的な世界を描きます。
音楽では、本作内でのキーモチーフの《変奏》を重ねつつ、一幕、二幕のモチーフが集結し、物語世界のピークに達します。
― わたしたちは求めても求めても得られないものに、それでも手を伸ばしてしまう。
“諦念を超える無垢性”を通じて得られる《境地》へ至ります。
◆ 5日間×3年 合計15日の現象
一枚の絵
一節の詩
一つの旋律
一羽の鳥
一つの星
それらは多くの観測者たちに見守られ
互いに響き合いながら 変奏し 受け継がれ 増殖して
ひとつの《観測世界》として
立ち上がりました。

Ⅱ 三部作で何を見せたかったのか
三部作を通して見せたかったのは、三つの個展であり、同時に一つの大きな《世界》です。
一つの個展が、《絵画》《詩》《音楽》の共鳴で一つの体験を生み出したように―
三つの個展もまた、共通するテーマやエモーション、モチーフを受け継ぎ、深化・展開することで、一つのより大きな《世界》やテーマを紡いでいけるのではないか、と考えました。
暗闇に一つずつカンテラを置いていくように
世界が少しずつ姿を現していきました。
その全体が見えるのに、三年を要しました。
Ⅲ 三年間で起きた現象
三年間、この世界はどのように存在したか、誰かに届いたのか。
振り返ると、その輪郭はデータや現象に刻まれていました。
◆催行データ
会場 ギャラリーCORSO(東京 神保町)
展示部床面積 68.7㎡ 壁面長 40m
開場日数 計15日(各年5日)
開場時間 計105時間
来場者不在時間 累計15分未満
来場者数 のべ800人超
◆展示データ

絵画作品 計112点
2023 31点
2024 32点
2025 49点
詩片 計97篇 (配置ボード 計195枚)
2023 29篇 (45枚)
2024 30篇 (61枚)
2025 30篇 (89枚)
※配置ボード数は、詩片を掲示した配置点数
回を追うごとに文字量が増加した
空間音楽 計90分
30分×3年
すべて6基のスタンドアロンデバイスによる分散同期
演奏協力 Vn./Va. 河合晃太(Musicエンジン) ギター/アンビエントノイズ 下田賢佑
3年で合計6名のネイティヴの英語話者に参加頂いた
◆来場者の属性
『ヴィーナス&ブレイブス』『セブン~モールモースの騎兵隊~』『姫君の青い鳩(エースコンバット)』といったゲーム作品をきっかけに来場された方が過半数を占めています。
『青い鳥のタロット』や音楽系アートワーク、SNSで幻想絵画を知ったことをきっかけに訪れた方々も見られます。
一般的なアート愛好家や、ギャラリー巡りを趣味とする方は多くありませんでした。
その中で共通していたのは「会話・撮影禁止」「作者からのお声がけなし」の静かな会場で長い時間を過ごし、この空間に身を委ねる方が非常に多かったことです。
◆来場者の特徴的な行動
計50分の音声ガイド(2周目以降限定)を最後まで聴く方
90分以上滞在し、二周、三周と巡る方
目頭を押さえながら観測を続ける方
こうした方々は決して珍しくなく、
作品をまとめて購入される方
目を閉じて音声ガイドに耳を傾ける方
日をまたいで何度も足を運ぶ方
遠方から、三年間通い続けた方
15日すべてに来場した方
という方も存在しました。
これが、この三年間で《観測世界》で起きた現象の一角です。
Ⅳ 観測者たちの目撃記録
観測者たちは、それぞれの観測に基づき、詳細な記録を残してくれました。
(以下 '25年 メッセージカードから引用)
「来てよかった…生きててよかった…と 思わせてくれる個展でした。
これからも ちいさないのち をもやして、がんばって星をともそうと思います。
素晴らしい個展を、ありがとうございました!」
「三部作の個展すべてに足を運べてよかったです。
ここに来ると、自分の孤独が少し照れくさそうに誇らしい顔をします。
昨年からこの日をずっと密かに楽しみにしていました。
自分にとってMPを回復するような、とてもとても大切なひと時になっています。何周も何周も、気がついたら数時間がたっていました」
「京都から、この個展のために寄せていただきました。
前回と同様に、この個展でなければ感じることのできない感情があると思いました」
「三部作、観測させていただきました。正直申しますと、今日が来てほしくないと思っていました。この観測が、終わってほしくなくて。
ここに来るまでの道のり、あふれる何かをおさえながら、歩を進めました。
わくわくした気持ちとさみしい気持ちは、同じ気持ちなのかもなぁと考えていました。23、24年の個展とはまた違う、けれどところどころで前の個展を思い出させてくれ、今日は3年分の感情が一気に目から、耳から、内側から、あふれてきました。これからもこの世界を観測させてください」

「三年かけて見届けることができて本当に良かったです。
孤独というものを語るところから始まった一連の展示が、いつかなくなる素粒子の微かなゆらぎへと収束していく。そのゆらぎの中に確かに尊ぶべきものがあると感じる過程でした。旅に少しの間ご一緒させていただき、ありがとうございました」
「三部作完結、おめでとうございます。この三年間、この個展の空間が私にとって、一年にいちど「帰る場所」のようになっていました。今回は、個々の「いのち」そのものに光が当たった展示だったなと感じます。外の世界からは孤立していながらも、誰に対しても開かれている。この創作世界が、いつまでも続いていきますように」
「三部作全部を通して見ても、一つだけ見ても、しっかり物語になっているところ。『作品を作るってこんなことを考えて、形にしながら』という制作の段階まで作品になっているところ。その仕掛けがとても美しくて好きです」
「2周目、解説を拝聴しながら鑑賞して、川口さんの言葉や、反逆天使プラグマの詩から、救われたように、温かい涙に変化しました。それで良いんだと。
そして孤独に自身の思うように生きればいいと感じました。今回もやっぱり2周ともに泣かされました。でも、あったかい、ほのかな光を連れて帰れそうです」

「絵の美しさはもちろんですが、川口さんの言葉は、本当に作品としてものすごい力だと、年々感じます。届けてくださって本当にありがとうございます。この共鳴の感覚は川口さんの作品にしか感じたことがないです。深度がものすごいです」
◆合流した観測者たち
「去年初めて個展を知り、訪れ大変感銘を受けたものです。元々ヴィーナス&ブレイブスが本当に好きで、特に世界観に惹かれた身なのですが、『私が惹かれた世界はこれだったのだ』と強烈に痛感しました」
「『姫君の青い鳩』で知り、『青い鳥のタロット』が大好きなので、一度は川口さんの作品・世界観、創作にふれたいと、軽い気楽な気持ちで来ましたが、視覚、聴覚、そして詩からくる心の震えみたいなものに、すべてが刺激され、感動いたしました。『生きるという《変奏》』で涙が出ました。最後の●●● も、涙腺が決壊しました」
「三部作の最後ということで、これまでの文脈がわからない部分もあるのですが、『創作者』としての志が感じられる展示で、大変良かったです。自分の世界を彫刻するという試みが、音楽、詩、絵画すべてに行き届いている。子供のころから40代半ばの現在まで、マンガやアニメやゲームや美術品は何でも好きだったのですが、最近の日本のこうした作品群には、残念ながらここで見られるような志を感じません。川口さんの活動がこのまま続くよう願っています」
「V&B繋がりでこちらの展示を知り、去年から拝見しています。今ではゲーム関係なく大好きな絵も多く、とても嬉しい出会いとなりました。キラキラ光るような絵、どこか物悲しく感じる絵など、どれもとても素敵です。ハッとするような詩篇から受ける心の波紋も、ずっと私の心に様々な影響をくれます」

◆言葉を超えた観測
「深く考えることができなくて、ただ、気持ちいい場所だなって、今日もずいぶん長居してしまった」
「三年連続で来ましたが、一番心を動かされました。それを言語化しようとしたものの、これを表現する語彙がなく、「あぁ、なんて無知蒙昧な…」と思っていましたが、「それで良い、それが良い」と言って下さり、ハッとさせられた気持ちになりました」
「音楽と詩、絵、テイスト、色、表現、この空間の全てがあったからこそ、私でも理解できて、テーマを自分なりに考え、落とし込めたように思います」
「とても素敵な展示、作品をどうもありがとうございました。まだ終わりではない。止まったり、道を間違えてしまっても、いのち、というか言葉では表せない「何か」がある限り、ひかりがあるように感じられました」
「“星”というものがとても好きで、愛していて、様々な形で触れてきました。今回、この個展で触れることができた、あるいは触れられなかった“星”は、言葉という形に落とし込みたくないほどに、まばゆい何かを私に与えてくれました。その、形にできない何かを大事に抱えたいです」
「-3年、長くて短い。
計15日間、ひと月の半分。
少ない?多い?
……少ない!!」

—2025年個展 全83通の観測記録より抜粋
Ⅴ そして観測世界は続いていく
2023年。9年ぶりの個展は、その後三年続く《三部作》の第一幕でした。
2025年。ここで完結した《三部作》もまた、
これから観測される“大きな世界のはじまり”です。
ようこそ
《観測世界》へ

2026.7.10
川口 忠彦 Tadahiko Kawaguchi
◆関連ドキュメント
展示内容・形式の詳細が確認できます。

履歴
[2026.7.10 公開]








